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『製造人間は頭が固い』

『製造人間は頭が固い』
上遠野 浩平

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第200回は、あの『ブギーポップ』シリーズの核心にせまる対話集であるこちらをご紹介します。
もちろん『ブギーポップ』シリーズを読んでいなくても本書を単体で楽しむことは可能です。
ただし「最強人間」というキーワードだけで固有名詞が思い浮かぶくらいの状況で読むほうが、すんなりと楽しめるかもしれません。
状況設定や人物設定をすでに知っている方がスムーズに内容を理解できるから、という理由だけではありません。
独特なリズムで禅問答のようなやりとりが続く会話文に対してどんな印象を持つか、というだけでも本書の印象は大きく変わると思うからです。


簡単なあらすじ
合成人間を「製造」することができるとされる能力者、製造人間ことウトセラ・ムビョウ。
ウトセラはあるとき一人の少年を助けることになります。
その少年は特別な能力をなにも持っていないようなのですが、ウトセラは何故少年を助けることにしたのでしょうか?
少年をはじめ様々な「○○人間」との邂逅を経て、彼らとの会話の先にウトセラがたどり着く結論とは……。



本書は「対話集」と表記されるほど、会話文がその大部分を占める物語となっています。
上述した製造人間ウトセラと、様々な能力者の文字通り禅問答。
状況描写や人物描写、ストーリーらしいストーリーもあるにはありますが、本作の「本体」は対話にあります。
しかも、対話の内容が「世界の本質とは何か?」「可能性とは何か?」「人の持つ願望と限界とは?」といったかなり抽象的な内容です。
この独特なリズム感で続く会話文を「上遠野節」と表現するなら、本作はまさしく「上遠野節」が高純度で形になった一冊であるといえるでしょう。
だからこそ、「上遠野節」のなんたるかを事前に分かっている、さらにいえば抵抗なく読める方にこそオススメしたい一冊です。


ところで、ここでいうところの「上遠野節」は本書に限らずこれまでの作品にも出現していました。
以前ご紹介した『ブギーポップは笑わない』だけでなく、『恥知らずのパープルへイズ』も該当しますし、別にこのブログで紹介していない作品でも同様です。
結局のところ上遠野先生の作品群に共通する特徴は、上遠野先生自身が抱く抽象的で漠然とした疑問が物語の根底にある、ということなのでしょう。
ただし、これまでの作品ではあくまでもその疑問は物語の根底にとどまっていて、エンターテイメント性の強いストーリーや状況・人物設定の印象が強いため、相対的に「上遠野節」の全体に占めるウエイトが小さくなっていたのです。


実は、この漠然とした疑問が物語の根底にあるというポイントこそが最大の魅力であり、中・高校時代のアザラシがむさぼるように『ブギーポップ』シリーズや『ナイトウォッチ』シリーズ、『事件』シリーズを読んでいた理由に他なりません。
世界は決して平等でもないし、生き易くもないし、不条理に満ちているとしか思えないのに、どうして今の形で存在しているのか?
そもそも、そんな世界をどう捉えて、その世界でどうやって生きていけば良いのか?
自分が将来に対して漠然と抱く希望と不安にどう立ち向かっていけば良いのか?
もしも自分に可能性があるのだとすれば、それはどんな形で実現するべきなのか?
ちょうど自意識が確立して世界や未来と現時点の自分を対比しなければならないと強迫観念的に思い込む、思春期前後の少年少女にぴったりなテーマだと思いませんか?
こんなテーマが自分たちと同世代の少年少女による冒険活劇として描かれているのだから、ハマらないはずがないのです。


だからこそ、今回紹介する本作はかつて『ブギーポップ』シリーズに感化された大人にこそオススメしたい一冊です。
昔抱いていた漠然とした疑問は、大人になるにつれて意識しなくなっただけで、決して解決されてなんかいないというのがよくわかります。
全編通じて「上遠野節」がずっと続く対話集である本作は、かつて子供だった大人に漠然とした疑問を直接ぶつけ、価値観を激しく揺さぶるのです。
価値観を揺さぶられることがこんなにも「楽しい」ことだったとは……。
これを切っ掛けに、以前途中で読むのを止めてしまった『ビートのディシプリン』を読み直してみようかなと思うのでした。


ちなみに、本書が出版されたのは2017年。
上遠野先生がデビューしたのが1997年ですから、ちょうどデビュー20周となる節目の年に出版された一冊でした。
上述したように、その漠然とした疑問をずっと作品にし続けてきた上遠野先生の創作力に改めて敬意を抱きました。


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コメント

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No title

上遠野浩平さんは初めて知りました。
独特の世界があるのですね。
ブギーポップシリーズを読んでからの方がずっと面白く読めそうですね。
価値観を揺さぶられるというのは興味があります^^

現在は久しぶりに自分で本を買って(図書館になかった)
しかも540ページ超え(笑)
図書館で借りると期限が決まってるので集中して読むのですが、自分の本だと思うとついダラダラ^^;
いつ読み終わることやら??

七迦寧巴さん

上遠野先生の世界はかなり壮大で、膨大な著作が実は一つの世界として繋がっている、という果てしない作りになっています。
なので、どこから入っても大丈夫な作りにはなっていますが、たしかにお勧めするとすれば最初の作品から、ということになりますね。
少なくとも、中学生・高校生時代の僕は価値観を大きく揺さぶられました。
この歳になってもいまだに揺さぶられるのだから、読み応えは十分あると思いますよ。


長い本を読み切るには集中力が必要ですよね。
僕も時々ゆっくりになってしまい、いつ読み終わるのか…となってしまうことがあります。