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『生き延びる都市 新宿歌舞伎町の社会学』

『生き延びる都市 新宿歌舞伎町の社会学』
武岡 暢

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第191回の今回は、以前『歌舞伎町はなぜ<ぼったくり>がなくならないのか』をご紹介した武岡先生のこちらをご紹介いたします。
あくまでも広く流通する書籍として執筆された『歌舞伎町はなぜ〜』と比較すると、本書はより専門書的な書籍となっています。
若干内容が重複する部分もありますが、より包括的に歌舞伎町という地域社会の性質に切り込んだ一冊です。

簡単な内容紹介
日本最大級の歓楽街、歌舞伎町は無数に存在する雑居ビル群内にさらに細分化された店舗が非常に短いスパンで入れ替わりながらも、歓楽街としての姿を維持しています。
店舗だけでなく、人も流動しているにも関わらず、なぜ歓楽街という地域社会として歌舞伎町は維持され続けることが出来るのでしょうか?
歓楽街が歓楽街として恒久的に維持され続けることは、必ずしも自明の理ではありません。
人も店舗も流動することからこれまで社会学の枠組みの中で捉えることが困難であった諸問題を、「地域社会」という枠組みで捉える手法で切り取っていく武岡先生の鋭い洞察が知的好奇心を激しく刺激する一冊です。



歌舞伎町はなぜ〜』に引き続き、武岡先生の一冊です。
どれだけ歌舞伎町が好きなんだ?と思われるかもしれませんが、そもそもアザラシは歌舞伎町には近づかないようにしていました。
以前の記事でも書いたように、その後多少は「理由もなく抱く漠然とした不安」は解消されたものの、かといって積極的に訪れるようになるか、といわれると残念ながら今のところ歌舞伎町探訪をする予定はありません。
アザラシにとって歌舞伎町は、いまだに「日本最大級の歓楽街としてその名前を知らないわけではないものの、その実態はわからない未知のエリア」であり続けているのです。


本書の第一章を読むと、その「とらえどころなさ」は社会学の分野でも認識されていたことがわかります。
地域コミュニティーという用語のは相対的に漠然とした複数の定義を持っており、広く社会の事象を言語化して捉え記載することを旨とする社会学では研究手法も含めていまだに模索が続けられている分野の一つ、のようです(素人の認識なので学問的な正確性に欠ける記載かもしれませんが)
というわけで、そんな地域コミュニティーの捉え方の系譜の流れにのっとり、特定の地域とその地域で起こる様々な社会的活動そのもの全体を地域社会と定義して観察調査やインタビューを介して記述していった上で成立したのが本書の基盤となった武岡先生の研究成果なのです。
正直、社会学の研究手法にまつわる第一章の記述は専門用語も多く理解するのが困難ではありましたが、全ての章を読み終わり、研究そのものの全体像を把握したうえでもう一度振り返ってみると、その立ち位置がすこしイメージしやすくなったかもしれません。


とはいえ、本書の最大の面白さはやはり観察調査やインタビューに基づいて記述された歌舞伎町で起こる様々な事象の記載そのものでしょう。
例えば、歌舞伎町が如何に成立しその後さまざまな影響を受けながらも存続した歴史があり、歌舞伎町を歓楽街たらしめている雑居ビルという性質と媒介としての不動産業の実態があり、個別の業務形態ごとにある特殊性が明らかにされていく、一連の展開と情報量は圧倒的です。
上述したように『歌舞伎町はなぜ〜』と一部内容の重複があるものの、例えば不動産業の実態は本書の中でより詳しく説明されているのでかなり興味深く読ませて頂くことが出来ました。
もしもアザラシが歌舞伎町の雑居ビルのオーナーだったら、などとあり得もしない妄想にしか過ぎませんが、もしもそんなシチュエーションがあったら絶対に無視できない内容です。


そして何よりも、インタビューを介して集積された歌舞伎町で「生きる」人々の語りがまた圧巻なのです。
歌舞伎町で「生きる」人々の背景は、その地域社会で活動している人間からは見えにくいものです。
だからこそ、本書に記載された語りはアザラシの興味をそそらせる、文字通りより広い視野を与えた語りであったと言えるでしょう。
本書に記載された語りは、もちろん社会学という場のフィルターがかかっているとはいえ、確かにそこで「生きる」人々の肉声によるナラティヴなのです。
そういう意味では、本書は歌舞伎町という常に再生産され続ける歓楽街という地域社会で生きる人々のナラティヴであるといえますし、あるいは、そんな地域社会の研究をライフワークとした武岡先生のナラティヴであるとも読めるのです。
歌舞伎町についてもっと知りたい、と思っている方には是非オススメしたい一冊です。


ところで『生き延びる都市』というタイトルはなんてかっこいいのでしょう。
アザラシ的には漫画を原作としたこんな作品や横浜駅が舞台のこんな作品も連想してしまいますが……。
SF脳が暴走し過ぎですかね。

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