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『コーヒーが冷めないうちに』

『コーヒーが冷めないうちに』
川口 俊和

khsu

第178回の今回は、映画化もされた感動のタイムトラベルファンタジーであるこちらです。
以前アザラシの友人が読んだと言っていたような気がします。
感動の涙なくして読めない物語で、心が洗われるような物語を読みたい、という方にオススメです。


簡単なあらすじ
過去に戻ることができる、という都市伝説がある喫茶店。
その喫茶店には、過去に戻りたいと様々な人達が集まります。
しかし、過去に戻るにはいくつかの細かいルールがあって、簡単には過去に戻れません。
しかも、過去に戻ったとしても戻れるのはコーヒーが冷めるまでの時間だけ、さらに現実を変えることはできない、というのですが……。



本ブログでも、過去にいわゆる「タイムトラベルSF」と呼ばれる作品をご紹介したことがあります。
その記事でも触れましたが、例えば『時砂の王』ではまさにそんな時空を超えることによって生じる「タイムパラドクス」とその解決策がSF的手法で描かれます。
過去に戻って何かを変えてしまえば、何かを変えようとした自分が存在した「現在」は消滅してしまうはずで、変えようとした自分が消滅してしまえば自分が変えた過去もまた消滅するはずである、というのはいわゆるSF的な考証のもとでこそ発生するパラドクスであるといえます。
過去に戻るというタイムトラベルをあくまでもSF的に描くとすればその考証から目をそらすことはできないはずで、その場合にはやはりパラドクスそのものが物語の主題になりかねません。


では、本作はどうか、というと本作の描きたい主題はそのパラドクスそのものではありません。
「何故過去にいくことができるのか」という方法論や、「過去にいくことで物語上生じ得るパラドクスはどこにあるか」という結果論は、本作の主題ではないのです。
本作のファンタジーたる所以は、まさに本作が持つ主題そのものを描ききるために、過去に戻るための方法にはあえて踏み込まず、現実世界では生じ得ない「ルール」を先に決めてしまい、その「ルール」の中で発生する物語そのもので主題を描く、という表現の方向性にあるとアザラシは思っています。
だからこそ、本作は小難しい理屈や、形而上学的考証論に終始することなく、確かな感動を呼ぶ物語そのものを主題とし得たのだと言えるでしょう。


若干、技巧的な側面に拘りすぎました。
とにかく、本作の最大のポイントは現実を変えることができないのだとして、それでも過去にいくことで変わるものとは何なのか、というところだと思っています。
それは決して小難しい話などではなく、だからこそ、読者の心に確かな感動として残るのでしょう。
思わず、自分自身だったら過去に戻って誰と会ってどうしたいのか、と考えてしまう程。
本作を読むのを切っ掛けに、過去に想いを馳せてみても良いかもしれませんね。


とはいえ、本作で提示されたルールは厳しいながらも、ある意味で物語の重要な鍵になっています。
例えば、過去に戻ったとしても過去そのものを変えることはできません。
ましてや、それによって現在のあり方を変えることはありません。
それでも変わり得るものとは何なのか?
それこそが人が過去に戻りたいと思う最大の理由であり、タイムパラドクスの議論をするまでもなく、人がタイムトラベルに取り憑かれる理由であるとアザラシは思いました。


そんなわけで、過去に戻っても何も変われないのだとすれば、たしかに過去にはいかないかもしれないな、などと思ったアザラシでした。
でも、結局は過去にいけたらどんな条件だとしてもいきたいと思ってしまうかもしれません。
アザラシは、わがままなのです。


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コメント

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No title

この作品も涙なくして読めない本なのですね。
そう言われると読みたくなります。

わたしは過去を覗いてみたいです。
自分自身とは全く関係なくて、知りたい時代があるから(笑)
ティラノサウルスの羽毛は何色だったのか
それも見てみたいなあ〜^m^

七迦寧巴さん

コメントありがとうございます!
涙なくして読めない、とは若干大袈裟かもしれませんが、確かに心を温めてくれる感動の一冊でした。
読みやすくて、分かりやすいストーリーがオススメポイントです。

確かに恐竜は見てみたいかもです。
スケール感や空気感をそっくりそのまま味わってみたいですよね。
羽毛の色や風になびく様子とか、わくわくできそうです。

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七迦寧巴さん

七迦さん

ネタバレを気にしてくださってありがとうございます。
涙なくして読めないお話ですよね〜。
しかもこの、過去に戻る条件というのがなかなか厳しいのですよね。
この条件の厳しさこそ、本作を面白くしているポイントだと思っています。
心温まるお話ですよね。