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『CM地獄』

『CM地獄』
フィリップ・K・ディック
訳:浅倉 久志

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第123回の今回は、前回の記事で名前だけ紹介した本作です。
30ページほどですぐに読める短編なのですが、アザラシに強烈な印象を残した作品でもあり、今回ご紹介させていただきます。
ただし、最初にお断りしておきますが、非常に恐ろしく、後味の悪い作品です。
本作をオススメするとしたら、世の中に対して非常にシニカルな見方をする方、でしょうか。
なお、原題は『Sales pitch』です。


簡単なあらすじ
人類が太陽系の様々な惑星にまで進出するようになった未来。
技術が進歩した世界では、広告に使われる技術も当然進歩しています。
惑星間を移動する間にも、視聴覚に直接作用する広告が無遠慮に飛び交って、ありとあらゆる商品を売り込もうとしてきます。
そんな広告だらけの世の中にうんざりしていた主人公のもとに、ついに「自分自身を売り込むアンドロイド」が現れて…。



本作はハヤカワ文庫の短編集『ディック傑作集 まだ人間じゃない』に収録されていました。
が、こちらは現在絶版とのこと。
現在は短編集である『変数人間』に収録されているとのことで、もしもご興味を持っていただければそちらを探していただくのも良いかもしれません。
なお、表題作の『まだ人間じゃない』は『人間以前』として新訳版が出ているようです。
『まだ人間じゃない』は今回紹介している『CM地獄』よりもさらに恐ろしい話ですので、アザラシ的にはあまりオススメしませんが…。


アザラシがオススメするかどうかは別として、SFの面白さの1つに、既存の価値観を極端に強調した世界を設定して、その世界での人間模様を描くことでその価値観の新たな一面を炙り出す、という面白さがあるように感じています。
今回ご紹介している『CM地獄』もそんな「既存の価値観を極端に強調したディストピア」ものと呼べるでしょう。
発達した技術を使って、無遠慮に視聴覚に直接作用する広告は、あまりにも露骨で、読むだけでもぞっとします。
例えば、口臭予防の広告は、実際にそんな広告があったらしばらく立ち直れないかもしれません。


現代の広告も、確かにセンセーショナルなものもありますよね。
広告はその商品を売ることが目的ですから、多数ある広告の中で目立ち、興味を持ってもらうためにも、見た人に強い印象を与える必要があります。
だからこそ、広告の中には過激なものもあり、数ある広告の中には眉をひそめたくなるような広告もあるものです。
インターネット上にも多数の広告が溢れていて、中にはスマートフォンの画面全体に広がる広告や、画面上に表示され続ける広告、なんてのもありますよね。
さすがに視聴覚に直接作用する程ではないでしょうが、画面の一部を占拠され続けるというだけでも、やや鬱陶しく感じることもあるでしょう。
過剰な広告競争に対する1つのアンチテーゼとして、本作は面白い視点を与えてくれる作品でもあるのです。


一方で、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のフィリップ・K・ディックの作品でもあり、人とアンドロイドの対比という意味で読み解いても面白い作品です。
あらすじにも書いたように、本作には「自分自身を売り込むアンドロイド」が登場する訳ですが、そこはフィリップ・K・ディックの世界のアンドロイド。
消費者に対して真に「共感」することなく、強引に売り込みをかけてきます。
当然、溢れかえっている広告にうんざりしている主人公は、神経を逆撫でされることになる訳で、その先には「悲劇的」としか言いようのない展開が待っています。
別の結末もあったかもしれませんが、その別の結末が実現したとすれば、人とアンドロイドの境界という前提が崩れてしまう訳で…アザラシ的には複雑なところです。


正直、かなりシニカルな作品だと思うので読む人を選ぶ作品かもしれません。
オススメするとすれば、いわゆる「ディストピアもの」が好きという方ですね。
まぁ、アザラシも結構ひねくれ者なので、こういう作品も嫌いではないですよ。


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コメント

非公開コメント

No title

あ!これですね!CM地獄^^
図書館に、変数人間がありました。これに収録されてるのですね。
借りてみなくちゃ。
わたしも広告は好きじゃなく、テレビもCMがイヤで民放は殆ど見ない(笑)
そしてもし見ても必ず録画にしてCMはすっ飛ばす人間なので、
どーんと嫌な気持ちになるかな?どうかな?

七迦寧巴さん

そうなんです!
これがCM地獄です(笑)
自分もそうなのですが、CMがイヤ、ということなら序盤はかなり共感できるかもしれません。
その分ラストが、、、かもしれませんが。
自分も表題作『変数人間』が気になって、読んでみたいなと思っています。